認知症で攻撃的な家族に対応するには?暴言・暴力の予防法と改善策
2023.05.25
認知症ケア
アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症などの認知症の症状が進むと、これまでとは考えられないような人格に変貌してしまうケースは多々あります。その中でも、突然暴力をふるったり暴言を吐いたりなど、攻撃的になる認知症患者は少なくありません。
認知症患者を日常で介護・サポートしている介護者にとって、攻撃性のある言動は腹立たしく、かつ悲しくなるものです。しかし、認知症特有の攻撃的な言動が起こる理由や適切な対処法を把握しておくことで、より上手にサポートすることができるでしょう。
そこで今回は、認知症特有の攻撃的な言動が起こる理由・暴言や暴力が起きたときの対応について詳しく紹介します。認知症患者の攻撃的な言動を予防・改善したいと考えている人は、ぜひ参考にしてください。
認知症に向き合う家族や専門職員の方にお届けする。認知症10,000人の方と関わる私たちが実践する、穏やかな気持ちで向き合うケア手法とは?
認知症は、脳機能・認知機能の低下により日常生活全般に支障が出ている状態を示すものであり、厳密には病気ではなくあくまでも「症状の総称」を指します。主に高齢者に発症する認知症の代表的な症状は、「記憶障害」です。数分前のことを忘れて、何度も同じことを言うなどのケースは多くの認知症患者にあらわれます。
しかし、認知症の進行度によっては攻撃的な言動を取る場合があります。認知症患者による暴力や暴言には、いくつかの理由が考えられるでしょう。
そこでまずは、認知症特有の攻撃的な言動が起こる理由を一つひとつ説明します。
認知症が進行すると、感情のコントロール・制御をすることが困難になっていきます。感情をコントロールし、冷静に考え行動する前頭葉という部分が委縮しやすいためです。本人の性格や意思に関係なく、何らかの感情に伴って興奮してしまうため、これまでの性格とはまったく異なる印象に不安を覚える家族も多いでしょう。
さらにこのとき、どうにか本人の興奮を抑えようと大声を出して注意したり、力づくで押さえたりすると、かえってパニックになってしまう可能性も十分にあります。
認知症の症状があらわれて不安になるのは、家族だけではありません。認知症の症状を最も身近に感じる本人は誰よりも不安でしょう。「目の前にいる人が誰なのかわからない」「何をしようと思って外に出たのかわからなくなった」など、本人にしかわからない不安や心細さは数多くあります。
このような不安な気持ちを抱えて毎日を過ごすため、突然混乱やパニックに陥り、攻撃的な言動が起こることも決して頷けない話ではありません。
自尊心を傷つけられることは、認知症患者だけでなく多くの人が怒りを覚えるものです。認知症患者の多くは、自身の能力の低下を自覚しています。家族はサポートしているつもりでも、本人が外出や料理など毎回何らかの行動を起こすたびに「大丈夫なのか」と聞いたり試すような行動をしたりすると、本人は腫れもの扱いをされたような気分になり、自尊心が傷ついてしまいます。
このように、家族に悪気がなくとも不本意ながら本人の自尊心を傷つけてしまい、怒りや悲しみの結果として攻撃的な言動が起こるケースも少なくありません。
認知症を患っていない人たちは、自分の体調の悪さについて「どこの調子が悪いか」「なぜ調子が悪くなってしまったのか」「体の調子を改善するためにはどうすればよいか」などの情報を頭の中で考え、適切な行動を起こすことができます。しかし、認知症が進行した人にとって、この一連の思考・行動は簡単にできるものではありません。
そのため、「なぜこれほど体調が悪いのか」と苛立ちを感じ、体調の悪さを察した家族が本人を病院に連れて行こうと思っても「体調が悪いのになぜ無理に外出させるのか」とさらなる怒りを覚えることも多々あります。結果として、攻撃的な言動が起こってしまいます。
攻撃的な言動を取っている認知症患者は、一貫して「混乱・パニックに陥っている」ことがわかります。そのため、介護者は認知症患者から攻撃的な言動を受けたとき、言葉や力で対抗することは最善策ではありません。また、認知症患者からの暴力や暴言があっても、認知症患者や自分を責めることもよくない行動です。
では、認知症患者による攻撃的な言動が起きた場合は、どのように対応するとよいのでしょうか。ここからは、医療施設や介護施設で働く介護者に向けて、適切な対応策を紹介します。
最も簡単で、かつ日常的に行える対応法が、「認知症患者の言動がヒートアップする前に、物理的・心理的に距離を置く」という方法です。認知症患者が苛立ちはじめたことがわかった段階で物理的・心理的に距離を置けば、介護者は暴力や暴言に巻き込まれることはありません。
また、認知症を患っている本人にとっても、介護をしてくれるスタッフを傷つけてしまうことは不本意で、悲しい出来事です。物理的・心理的に距離を置くことで、認知症患者本人もクールダウンでき、暴力や暴言をしてしまうことがなくなります。物理的・心理的に距離を置くことは、認知症患者本人と介護者自身を守るための最善の方法といっても過言ではありません。
前述の通り、認知症患者が攻撃的な言動を起こしてしまうことには、必ず背景に理由があります。相手にうまく自分の感情が伝わらず攻撃的となるケースも多々あるため、物理的に距離を置くことが難しい場面では、介護者が認知症患者本人の感情を理解し、かつ受け止めることもポイントです。認知症患者の口調がやや荒くなったとしても、決してそれに対して怒ったり責めたりせず、とにかく受け止めることを意識してみてください。
相手の感情をきちんと理解するためにも、介護者はまず「前後に何があったのか」を察知する必要があります。そのうえで、本人の気持ちに立ち、なぜ攻撃的な言動を起こしてしまったのかを考えましょう。相手の感情を理解し、受け止めることで、攻撃的な言動を起こしていた認知症患者は安心してクールダウンする可能性があります。
認知症患者の暴力や暴言がひどく、物理的・心理的に距離を置いたり、相手の感情を受け止めたりしてもなかなか改善しない場合は、家族や専門家に相談してみることがおすすめです。
日頃の介護や介護者の接し方が、知らず知らずのうちに認知症患者にとって負担となっているケースも珍しくありません。このようなケースになると、介護者がどれほど努力しても報われない可能性もあります。普段は介護に携わっておらず、認知症患者本人にとっても気兼ねなく何でも話せる家族や、本人のかかりつけ医・認知症ケアに精通したケアマネジャーなど頼れる第三者に相談すれば、問題の解決に導く糸口の発見が期待できるでしょう。
認知症の攻撃的な言動を予防するためには、攻撃的になった心理状況を推測したうえで、日々のコミュニケーションに注意することも重要です。最後に、認知症患者による攻撃的な言動の予防法・改善策を紹介します。
認知症患者にとっては「できる」と感じているものに対して、「本当にできる?」「できないだろうから、やってあげる」といった言動をすることは、自尊心を傷つけてしまう原因となります。介護者にとっては生活支援のつもりであっても、本人にとっては子ども扱いをされた・侮辱されたような気分となるため、なるべく遠くから見守るようなスタイルで介護を行いましょう。
混乱・パニックを起こし攻撃的となっている認知症患者に対して、否定することはタブーです。たとえそれが現実的なことではなくても、まずは一度受け止めることを心がけましょう。認知症患者にとっては、何気なくつけた「けど」「でも」に対しても怒りを覚える可能性があるため、なるべく本人を尊重して受け入れることが重要です。
認知症患者による暴力や暴言が何度も起きないよう、介護者はその都度「どうしてほしいのか」を具体的かつ丁寧に伝えることが大切です。例えば、体調が悪くて苛立ちを感じている認知症患者に対しては、「どこの調子が悪いのか」「今はそっとしておいてほしいのか、それとも治療して調子をよくしたいのか」などを聞きましょう。本人にとっても「どうしてもらいたいのか」をうまく伝えられないケースもあるため、介護者が順序立てて話を聞き出し、解決に導いてください。
また、日頃から上記のようなコミュニケーションを取ることは、本人にとっても気持ちよく毎日を過ごせるだけでなく、認知症の進行予防にもつながります。認知症を予防するためにはその他にどのような方法があるのかは、下記の記事で紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
認知症の進行により、突然暴力をふるったり暴言を吐いたりなど、攻撃的になる認知症患者も多くいます。日頃から全力で認知症患者をサポートしている介護者にとって、暴力や暴言は悲しくなるものですが、適切な対応策を実践することで上手に向き合うことができます。
認知症特有の攻撃的な言動が起こる背景には、感情のコントロール不足のほか、自尊心を傷つけられたことによる怒りなどが挙げられます。介護者は、攻撃的な言動をなるべく起こさないよう、物理的・心理的に距離を置いたり、相手の感情を否定せずに受け止めたり、第三者に意見をもらったりすることが大切です。
なるべく相手の立場に立って介護を行うことは、認知症患者本人と介護者を守るためにも必要なスキルと言えるでしょう。
認知症に向き合う家族や専門職員の方にお届けする。認知症10,000人の方と関わる私たちが実践する、穏やかな気持ちで向き合うケア手法とは?