認知症の予防はいつからすべき?発症を防ぐのに有効な予防法とは
2023.05.25
認知症ケア
認知症は、年齢とともに起こりやすくなります。65歳以上の人がなりやすいといわれていますが、それよりも若い世代で認知症を発症するケース(若年性認知症)もあります。18歳から39歳までに発症した場合は「若年期認知症」、40~64歳までに発症した認知症は「初老期認知症」という区分があるように、65歳以上ではなくても認知症のリスクは決してゼロではありません。では、認知症の予防はいつから行うべきなのでしょうか。
今回は、認知症予防に取り組むべき年齢や、認知症予防におすすめの方法を紹介します。親もしくは自身が高齢になり、認知症にならないよう予防したいと考えている人は、ぜひ参考にしてください。
認知症に向き合う家族や専門職員の方にお届けする。認知症10,000人の方と関わる私たちが実践する、穏やかな気持ちで向き合うケア手法とは?
一般的に、人間の脳の老化や衰えは40代後半から始まります。そして認知症は65歳以上の人だけが発症するものではなく、50代後半から少しずつ物忘れ・記憶力低下などの認知症状が始まるともいわれています。
しかし、認知症の中でも代表的なアルツハイマー型認知症は、発症する約20年前から原因物質が脳内に蓄積され、認知機能が徐々に低下することが特徴です。発症の年齢は人によって大きく異なるため、「〇歳になったら認知症予防を始めるとよい」という定義はありません。
認知症は早期発見・早期対応が重要となるため、年齢に関わらず日々認知症予防に取り組むことが大切です。30代でも、40代でも早すぎるということはありません。
(出典:知ることから始めよう みんなのメンタルヘルス「認知症」
https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=WwE9LLpYbVZTIDMI)
認知症の発症を完全に防ぐことは難しいものの、発症をなるべく遅らせる・症状の進行を遅らせるという意味で予防することは可能です。現在では認知症予防に関するさまざまな研究が進められており、認知症予防に効果的な方法は数多くありますが、決定的な予防方法は見つかっていません。しかし、WHOの認知症予防ガイドラインでは認知症予防に役立つ情報が数多く掲載されています。
(出典:株式会社日本総合研究所「認知機能低下および認知症のリスク低減 WHOガイドライン」/https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/detail/20200410_theme_t22.pdf)
WHOの認知症予防ガイドラインでも紹介されている「認知症を予防するために有効な方法」には、下記が挙げられます。
● 毎日40~60分は体を動かす
● 栄養バランスの整った食事を摂る
● 生活習慣病の予防・治療をする
● 喫煙・飲酒を控える
● 頭を使うことを習慣づける
● 外に出て社会とつながる
● 聴力が低下しないようケアする
ここからは、各予防方法についてそれぞれ詳しく解説します。
また、下記の記事では認知症や認知症になりやすい人の特徴について紹介しているため、WHOの認知症予防ガイドラインに加えてご覧ください。
日常的に行う適度な運動は、認知症の予防効果が期待できる重要性の高い活動です。軽い運動をするだけでも脳細胞を活性化させる効果が期待でき、機能低下のリスクを低減させることが可能です。目安は1日40~60分で、運動内容は軽い散歩でも問題ありません。長時間の有酸素運動が困難な場合は、リハビリ用自転車の利用やストレッチ体操もおすすめです。
歩いたり四肢を大きく伸ばしたストレッチをしたりすることは、脳機能の低下リスクを予防するだけでなく筋力トレーニングにもなり、高齢者にありがちな転倒を予防することも期待できます。このように日々の適度な運動習慣は健康上にさまざまなメリットを与えるため、積極的に行うことをおすすめします。
認知症を予防するためには、食生活の見直しを行い、栄養バランスの整った食事を摂ることも重要です。
アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の発症は、摂取カロリーや塩分・糖分の摂取量が大きく関係します。摂取カロリーが高ければ肥満気味となり、肥満気味となればアルツハイマー型認知症のリスクが高まります。塩分・糖分の摂取量が多ければ脳梗塞のリスクが高まり、結果として脳血管性認知症を引き起こしてしまう可能性もあります。このように、日々の偏った食事が直接的にではなくても間接的に認知症を引き起こしてしまう場合があることを覚えておきましょう。
また、WHOの認知症予防ガイドラインでは「地中海食」が推奨されています。地中海食とは、新鮮な野菜や果物、穀物類などの植物性食品を豊富に使用し、乳製品は少量・魚介類は適量などの特性ももつ食事のことです。
毎日のように地中海食を取り入れる必要はないものの、主食に偏らず主菜や副菜をしっかりとってバランスのよい食事を摂ることは欠かせません。特に高齢者は、たんぱく質やビタミンDなどビタミン類が不足しないよう注意することがおすすめです。
生活習慣病の発症は、認知症の発症にも大きく起因します。そのため、日頃から生活習慣病を予防することはもちろん、すでに生活習慣病を発症し持病となっている場合は、積極的に治療に励むとよいでしょう。
認知症につながりやすい生活習慣病は、高血圧や糖尿病、脂質異常症、脳卒中が挙げられます。それぞれ予防に適切な方法は異なりますが、前述した運動・食事の見直しは一貫して効果的な予防方法でもあります。すでに生活習慣病が持病となっている場合は、定期的な診察や治療を欠かさず受けることも忘れないでおきましょう。
日々の喫煙・飲酒は、認知症の発症リスクを高めてしまいます。喫煙者は言わずもがな非喫煙者に比べて認知機能の低下や生活習慣病のリスクがあり、お酒の飲みすぎはアルコールにより脳が委縮し、機能低下しやすくなるためです。
しかし、厚生労働省が運営するe-ヘルスネットでは一週間の飲酒量が少ない人の認知症リスクが低いことが発表されており、「少量飲酒は認知症予防となる可能性がある」と発表されていました。
もともと飲酒の習慣がない人も含めて効果的な予防方法ではないものの、飲酒においては適量であれば問題ないということがわかります。これまで大量飲酒が習慣だった場合は、控えめにすることを心がけましょう。また喫煙においては認知症以外の健康上のリスクもあるため、禁煙することが最善です。
認知症を予防するためには、頭を使うこと、つまり「知的行動」を習慣づけることも効果的です。常日頃から頭を使って物事を考えることで脳によい刺激を与えられ、脳機能の活性化が期待できます。
知的行動の習慣化には、あらゆる方法があります。下記は、すぐに取り組める具体的な方法です。
また、知的活動に取り組む際は、本人が興味のあるものでなければ長続きしないだけでなく、かえってストレスを感じてしまうおそれがあります。なるべく本人が楽しめるような活動を実施することで、無理のない範囲で積極的に取り組めるでしょう。
社会活動が認知症予防になるという決定的なエビデンスはないものの、社会交流が少ないことは認知症の発症率を高めるとされています。家の中にこもりきりの生活だと、認知症予防につながる活動に制限がかかるだけでなく、同じような日々が続くことでストレスにつながり、結果として脳機能が低下するおそれがあるためです。
社会的動物ともいわれる人間は、外に出て社会とつながる、つまり他人と交流することで脳によい刺激を与え、気持ちを前向きにさせる効果があります。認知症予防につながる社会生活・社会参加の具体例は、下記の通りです。
また、社会参加においても、本人を尊重したうえで無理なく続けられる取り組みを選択しましょう。例えば、介護施設への入所を望んでいないにもかかわらず、半強制的に介護施設に入所させると、本人は多大なストレスを感じ、かえって精神面に悪影響を及ぼします。どのような方法で社会参加をするかは、本人と家族でよく話し合ってから決めましょう。
認知症予防には、聴力低下予防も有効となります。聴力が低下すると耳から脳に入る情報が少なくなり、神経細胞の活動が衰えてしまうためです。人間は誰もが加齢に伴って聴力が低下するため、調子が悪くなってきたと感じた際はなるべく早めにケアしましょう。
聴力の低下を予防するためには、日常生活の見直しがまず重要です。大音量でのテレビ視聴や音楽鑑賞は控える・静かな場所で耳を休ませられる時間をつくるなど、耳に負担をかけない生活を心がけてください。
聴力の低下を感じ始めたときは、なるべく進行を遅らせるためにも耳鼻咽喉科を受診することがおすすめです。耳鼻咽喉科では聴力検査をしたのち、一人ひとりに適した補聴器を調整してもらうことができます。聴力低下の傾向を早期に発見すれば、それだけ症状の進行も遅らせることができるため、定期的に耳鼻咽喉科に通いましょう。
人間の脳の老化は40代後半から始まり、認知症は50代後半から少しずつ発症率が高まるといわれていますが、実際にはいつどのタイミングで認知症が発症するかは人によって大きく異なります。中には、40代という年齢で認知症患者となるケースもあるほどです。
認知症を早期発見できればそれだけ進行も緩やかにすることができるため、「〇歳になったら」ではなく日々認知症予防に取り組むことが重要です。
認知症を予防するためには、適度な運動や栄養バランスのとれた食事のほか、日頃の生活習慣を見直したり、社会活動に参加したりすることも有効となります。これらの方法は一貫して「本人が楽しみながら無理なく実践できるか」が重要となるため、本人と家族でしっかり話し合ったうえで、家族や介護者も安心して支援できる適切な予防策を講じましょう。
認知症に向き合う家族や専門職員の方にお届けする。認知症10,000人の方と関わる私たちが実践する、穏やかな気持ちで向き合うケア手法とは?